歴史と本マニアのための部屋

歴史、政治、本、あと吹奏楽関連のつぶやきです

映画「ニューヨーク公共図書館 Ex Libris」を見て

きっかけ

発端は、先月Twitterで見かけたあるWeb記事だった。

 

しかし実は書いてたのは知ってるネットピアニストの方だった。

 

この記事におおよそのいきさつをまとめられている。

 

 

レファレンス・・・?

知ってるけど、何か・・・?

と思って自分は発作的に感想書いた。

 

 

そこからの流れで教えてもらったこの映画。2019年公開らしいが、ちっとも知らなかった。何やってたんだろ、自分……?

映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』公式サイト

エクス・リブリス Ex Libris =蔵書票( 蔵書票 - Wikipedia)とは、日本で言うと本の奥付のところに捺してある各図書館の印のことだ。本の奥付に書誌情報を載せるのが日本独特の文化だ。

 

調べてみるとこの「公共図書館」ていうのは市立とか公立って意味じゃなくて、大衆に広く開かれたというほどの意味らしい。

ニューヨーク公共図書館 - Wikipedia

て言われてもどういうこと……ピンとこないなあ?

 

しかししばらくウチのパソコン壊れててネットも見れず、色々調べることもできなかったので、遅ればせながら映画見た感想でも書こうと思う。

Amazon.co.jp: ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(字幕版)を観る | Prime Video

(登録してすぐなら無料で見れた)

 

 

 

目次:クリックで各項目へ飛べます

 

 

先入観

ニューヨークってどんなところ?

自由の女神アメリカ横断ウルトラクイズの決勝戦の場所!

映画でオードリー・ヘップバーンが5番街のティファニーの前歩いてた!

ー--観光客目線ですね!

 

危ない街。犯罪の街。スプレーの落書きだらけの地下鉄、銃撃戦。漫画BANANA FISHとか、ミュージカルのウェストサイドストーリーに出てくる感じ。

ー--今は都市改造計画でだいぶ改善されたらしい。

 

人種のるつぼ。国際都市。国連本部。

ー--アメリカンドリームを体感できる街かも。

 

金融と経済の中心地。タイムズスクエアウォール街

ー--物価もその分高い。

 

 

芸術、文化の中心地。アメリカンバレエシアター(バレエ団)、ニューヨークフィル、カーネギーホールMoMA……あとメトロポリタン美術館とか?オペラハウスにブロードウェイもあるよね。ジュリアード音楽院では五嶋みどりが学んでいた。

五嶋みどりの16歳当時の動画:
Sarasate: Carmen fantasy - Midori & Seiji from Leonard Bernstein 70th Birthday Concert 1988 - YouTube

 

それから、JAZZの本場でもある。ブルーノートにコットンクラブにアポロシアター

 

あと、著名なマスコミもここに集まる。ウォールストリートジャーナルにニューヨークタイムスに…

ニューヨークヤンキースの本拠地でプロスポーツも盛ん。

有名な建物は、ロックフェラーセンターエンパイアステートビル、……

 

 

ー----自分のイメージはこんな感じだった。

 

政治的首都のワシントンに対して、経済・文化的中心地のニューヨーク。エンタテイメントの中心ロサンゼルスや新興経済地域のシリコンバレーとともにアメリカを牽引する都市。

みたいな感じー-?

 

自由の国アメリカ。

 

 

………この記事は、この程度の知識の自分が書いてます。

悪い事言わん、やめとけ!!とツッコミたい人はこの辺で引き返してください。

 

 

何でこの程度の知識しか無いのかというと、(洋楽とかロックとかもなーんも分からない)自分の個人的な思想の問題で。

 

欧米の白人が苦手というか?…………キリスト教を布教する名目で、植民地によって豊かさを維持してた歴史があるから。隣人愛を説くんじゃなかったんですか?おかしいでしょ。(自分が欧米について考えるとき、絶対この考えがベースに来てフラットな思考ができなくなる)

 

そんな白人社会がリードしてる、キリスト教国のアメリカ。

建国の歴史からして、元々ネイティブアメリカンが先住してた国を一方的に「発見」して「開拓」しただけなので、あんまり理念というか存在を認めたくない。

ワシントンとかジェファーソン率いるアメリカが独立戦争で勝ったというと、英雄みたいに聞こえるがなんのことはない、植民地目的にやってきた侵入者同士が戦争してただけである、先住民にしてみれば。

さらに建国以来の国の発展には黒人奴隷制度が大いに寄与してたところも、自分がどうにも好きになれない点。黒人奴隷制度は、南アフリカアパルトヘイトとロシアの革命前の農奴と並んで、自分的に人類の3大汚点だから。

(それと比べれば清の纏足なんて人権侵害でも何でもない可愛らしいものだ!?)

・・・好き嫌い激しすぎる問題。どうにかしなきゃ。

 

という個人の好みによる感情から、アメリカのことは興味を持ちたくなかったのであんまり知らない。見聞きするものは全て白人社会優位、JAZZの成り立ちも虐げられてきた黒人から生まれたものと考えると、(頭のどこかで)受け入れたくないと思うというか、素直に楽しめない。

 

以上の経緯はあるが、現代のアメリカは政治・文化・経済・軍事すべてにおいて世界をリードする存在なので、そんな個人の好き嫌いは一旦棚の上にあげておく。

 

まあ一般常識的に冒頭の項目くらいは知ってるって感じです。

 

 

公共という意味

まず概要を調べてみた。

ニューヨーク公共図書館 - Wikipedia

 

創立は1895年。今年で127周年を迎える、世界屈指の規模を持つ公共図書館

マンハッタンの本館は大理石でできた壮麗なヨーロッパ風建築で、玄関ホールの装飾や細工も美しい。

(画像引用:上記wikipediaから)

 

所有資料 約5,300万点

年間予算 約340億円

職員 3,000人以上

年間貸出人数 340万人

年間来館者数 1,700万人(観光客を含むのかどうかはわからない)。

サービス対象:ニューヨーク市の住民や勤め人約800万人

本館のほかに92の分館3つの研究目的のリサーチ・ライブラリーを擁する。

(以上、Wikipediaから引用)

もちろん、膨大な資料は全部オンラインでリストが公開され、そのままオンラインで予約・近隣分館で受け取れるシステムがあるはずだ。と思う。貸出・返却の配送システムも確立されてるに違いない。

うーん、こうやって調べてみるとすごいですねえ。さすが図書館という組織の生みの親、アメリカ。黎明期からその思想は受け継がれてるのですね。

(単なる受け売り)

 

 

 

では我らが日本で一番大きな図書館、つまり国立国会図書館の規模を調べてみよう。

所有資料約4,400万点

年間予算186億円

職員約880人

年間貸出数 16,700点

来館者数約79万人

 

アカン。………比べようと思った自分が浅はかだった。比べ物にならない。

日本の国立国会図書館の方が、利用実績に比べて所有資料だけが明らかに多いっていうツッコミはあるかもしれない。それは国立図書館という性質上、新刊本は国会図書館へ原則納本するっていう制度があるからだ。自動的に日本で出版された資料は全部ここへ集まってくる仕組みになっている。

それにサービス対象も一般図書館への資料・情報提供、また国会議員の政策研究・立法のための調査などに寄与するのが目的だから、利用者数や貸出数が少ないのはそれもあるだろう。(と心の中で言い訳する。)

 

 

納本制度といえばアメリカにもその役割を果たす国立図書館があるじゃないか。

(リンク:アメリカ議会図書館 - Wikipedia )

所有資料  約1億点以上(書籍だけで数千万点)

年間予算  約610億円

職員約 3500人以上

【利用者 国会議員及びスタッフ 】

 

…………さすが民主主義の国。今も昔も図書館界の雄です。すごー。

コンピュータが生まれたのがそもそもアメリカ、World Wide Web(ワールド・ワイド・ウェブ、略名:WWW)が生まれたのもアメリカなら、図書館という組織というか理念が生まれたのがアメリカですからねえ。そういう、資料は国民のものっていう思想が根付いてるんですねえ。(他人事みたいだな)

 

昔は利用者への貸し出し処理、蔵書管理などを紙カードでやっていた。その書誌情報を納本制度をもとに一律デジタル化してデータベースにし(=MARC)、データベースを一般図書館に配布することで蔵書目録もデジタル・オンライン化(=OPACできるようにしたという功績は大きい。

このデジタル化された各図書館の蔵書目録は一般市民にオンライン公開されて、今在庫があるか、なければ貸出予約したり他館から取り寄せてもらえたりもできる(場所によるが)。

日本の図書館組織は、資料は公共のものであるという理念からしアメリカからの受け売りなのであるが、このシステムのデジタル化ひとつとっても、アメリカに感謝してもしきれないのだ。

いわばこのシステムが司書の事務作業を軽減し、そのぶんレファレンスや各種イベントなどのサービスに人材を注力できるようになるという恩恵にあずかっているのだから。

 

 

 

ー--話が横道にそれた。

 

 

ニューヨークの公共図書館のことを考えてるんだった、そういえば。

えーと、なになに?

wikipediaをもう一回見る)

設置主体は財団法人の運営するNPO

予算の一部は民間からの寄付で賄う。

 

えぇ?……なんですって?

もう一回言ってください?

 

ニューヨーク市立じゃなかったの?

事業主はNPO

資料を5000万冊以上抱えて?

予算を340億円も捌きながら?

その予算は税金じゃないなら、どこから出てくるの?

 

色々なんのこっちゃ分からないんですけど。

というわけで。

映画の冒頭のあたりで、館長らしき人が図書館について利用者への講演という形で語っていたので引用してみる。

というかこの冒頭の話に映画のテーマは全部詰まってる。

 

 

館長による講演ー公共図書館の概要 現状と課題

現実のプレゼン企画として積極的に事業展開することで民間の寄付が呼び込める。

さらに市の公的資金にも予算拠出の根拠としてよい提案ができる。

 

この話から、館長さん有能だわと思ったのは自分だけか。

管理職というのは現場が目的の事業を遂行できるように外部と折衝して資金を調達するのが仕事。そして現場の事業の内容には口を挟まない。

この館長さんは後で出てくるミーティングでも司会役をしたりして中心的存在だが、ディスカッション自体はあくまで職員同士に進行を任せ、議論の行方を誘導したりはしていないように見える。

 

理想や情熱、職員の力量も大事ですけど何もかも資金あってのことです。

世の中お金がないと始まらない。

経済大国アメリカだけあって(?)、そこはきっちり押さえてきてる。

 

・本って結構値段が高いですので。(大学の時、教科書だけでも年度ごとに数万円かかった)図書館の責務として資料収集と調査、且つよりよい蔵書の構築がある。その図書館ごとに収集の方向性は違うけど、資金がないと満足な資料は購入できない。

職員にも給与を支払わないといけない。日本だと図書館での色々なサービスはボランティアがやってるイメージがある(絵本読み聞かせや各種イベント)。しかしここでは司書がより専門性を発揮した業務をこなし、また各サービスにも職員が関わっている。予算がないと、そういった様々なイベントや講演会、放課後学童クラブなどのサービスは維持できない。

・資料以外にも、図書館の施設・設備の更新や増改築などのメンテナンスには巨額の資金が必要。施設の老朽化は利用者の満足度に直結するからここも削れない。

 

これらの予算というのが税金からの使い道が決まってるお金ではなく。

使い道つまり事業内容は職員主体で、それから寄付・出資する市民とのディスカッションにより決まっていく。

図書館のサービスは市民が決めているという意味だ。

つまり利用者が自分たちの利用するサービスを取捨選択してる感がある。

なんか似てませんか。

何にって?

アレですよ、民主主義の象徴。かつて一般市民権を長い闘争の末勝ち取った……

選挙権です。

 

自分たちの社会を構築するものは自分たちが決める。

主権は国民にあるってことです。

 

与えられる本、与えられるサービスを受け身になって享受するのとは違う。

 

これはニューヨークという立地あってのこと、ともいえるだろう。

何十万人という大学生をはじめとする知識人が住む都市。

あらゆる国から集まってくる人々が作る、ものの見方も価値観も違う、多様性をもつ社会。芸術・文化の点でも色々な人が集まることで新たな表現、新たな作品が生まれている気がする。

彼ら独自の創造的活動に、図書館も持てる全能力を傾注することで、相互に作用が循環するっていう化学反応が生まれてるような?

 

また図書館に寄付してくれる裕福な市民や団体の存在も、この都市ならではかもしれない。立ち並ぶ大企業の本社、世界でも高水準の所得レベル。彼らには寄付する余裕があるし、何よりも文化的活動に貢献することの意義を分かっているからなのだろう。

 

 

《 映画の途中で、たぶん民間の寄付出資者が対象なのか?司書によるプレゼンがある》

ゲストとして呼ばれた、委嘱されたオランダ人建築家(国際的だなあ)がそこで図書館の理念を語っている。

図書館の主役は「知識を得たいと思うあらゆる人」である。

本(その他資料)、施設、組織は、道具つまりツール。

ある分館のリニューアルに向けて、建築家は設計するにあたって多様性を感じられるようにと志しているらしい。あらゆる人の要求にこたえるためには、組織や道具はユニバーサルなものでないといけないからだ。

 

 

また横道にそれた。

ー----館長さんの講演に戻る。

 

図書館員はこれらをどう使いこなしてどのように利用者に提供するか。利用者の求める需要をどのように把握・分析するか、そこから得られる対策は何か。

 

どのような手法なら市民にサービスが行き届くのか?

その答えは一つではない。

しかし市民が必要としているところには遍く滞りなくサービスがいきわたらなければならない。

手段が本であれネットであれ、

「知る権利」

は市民は平等に持っているはずだ、と館長はいう。

 

 

充実の施設群と資料

この映画はドキュメンタリーだ。

図書館の何気ない日常、観光客の表情、分館周辺のさまざまな街と住民の日常を所々に挟みながら、ナレーションを一切入れずに淡々と映像は繋がっていく。

あんまり解説が無さ過ぎて、土地勘がまったくない自分は色々調べた。

 

冒頭にも書いたように全資料あわせて約5300万点。

書籍以外にもどのようなものがあるのかが、克明に映像に映し出されていく。

 

92も分館があるのだから、それぞれの施設は地域に根差し、利用者はごく身近に住んでいる人々。

 

本館があるのはマンハッタンのセントラルパークのそば、いわゆる5番街タイムズスクエアなども近い中心部。そこは人文系の研究図書館となっているようだ。

 

・地図の専門資料室。

・開館以来のニューヨークの各社新聞アーカイブ室(マイクロフィルム

 

・本館の斜め向かいの建物にある、ピクチャーコレクション。 創設は1915年と、100年以上の歴史をもつ。

え?今何か言いました?絵や写真なんてGoogle先生に聞けばいくらでも探せるし、絵なんて今やAIが作ってるじゃないかって?イラストレーターが分厚い資料集片手に仕事してたのはもう過去の時代だって?

甘いですね。

ネット上に流れてる資料は、世の中に存在するもののほんの氷山の一角にもならない。

ニューヨークの、アメリカの激動の歴史をじっと見てきたここのコレクションは、その時々の風俗、世情、政治経済から流行まであらゆる情報を写真やイラストっていうリアル媒体で伝えてくれるのだ。

はっきり言ってここに来ないと無い資料も多いだろう。

こういうコレクションがあるのはまさにニューヨークという都市を象徴している。

分類の仕方がまた芸術家向き。物ではなく事象ごとに分けている。

芸術家のイマジネーションを呼び込む資料群。

創造的な発想に応える、アナログアーカイブの圧巻のクオリティ。

 

はあ、何?この膨大ではあるが写真やイラストの資料群はスキャンしてデジタル化すれば事足りる?わざわざここに来なくてもよくなるって?

でもデジタルアクセスは、調べてて偶然他の資料も見つけるっていう出会いもなくすっていうリスクを孕んでる。電子辞書引いてるとほかのページに面白い項目見つけるっていう紙辞書時代のようなことがなくなるのと一緒。

だいたいコレクションの点数が膨大すぎてスキャンしきれるとは思えません。

 

さらにほかのシーンでは、いわゆる史料室?歴史的1次史料や、古い写真のプリントを調べたり、古地図などの原資料を写真撮影・デジタル加工できる分館も出てきた。

これら文字化・データベース化できない資料たちはデジタル化したとしても検索しきれないのではないかと予想する。

ニューヨークに存在する文化・芸術・エンタテイメント関連の施設とそれにかかわる人たち、またマスコミ関係者にとって、このピクチャーコレクションに限らず図書館の存在は、彼らの活動にとってなくてはならないものだと容易に想像がつく。

 

 

 

本館は人文系の研究図書館。

ほかにも特徴的な研究図書館を有する。

ていうか研究図書館って、ある専門性を有する資料に特化して収集・調査研究してる機関のことですよね、それって大学とか博物館・美術館などが付属図書館として併設してる機能じゃないんでしょうか。それぞれに専門的に特化した司書を揃えてることになるんですけど?

その機能まで担ってることにまずびっくりした。

 

舞台芸術図書館 New York Public Library for the Performing Arts

もはやイベントホールである。自分は映画見てて、「ん?これ、図書館の映画だよね?」って最初は色々混乱した。

設立の意義として、リンカーンセンター(ニューヨークフィルやオペラハウス、隣接するジュリアード音楽院を含む夢の施設群、ああ素敵……)の一角を形成する施設(そうだったの!??)として市民に芸術を提供する義務があるらしい。

この理念がねえ、日本じゃ考えられませんよね。

(コンサートは大枚はたいて聴きに行く、解釈にも教養が必要な敷居の高い高尚な場)

無料なんですけど?ここのプログラムは。まじですか?

スタインウェイのピアノでのリサイタルコンサート

クラシックピアニストの演奏を聴く、優雅な時間。

 

あらゆる芸術家が集まる都市ニューヨークの一角を形成する施設として、ここも有機的に機能しているといっていいだろう。

クラシックの資料だけではない。ここの近くにはブロードウェイもある。さらにJAZZも盛ん。そういう関連資料も世界でも類を見ない規模。

需要があってこそ資料が生きるってここのことかもしれない?

 

 

・ションバーグ黒人文化研究センター

ここは世界中の、アフリカ系の人々に関するあらゆる資料を有する。

Harlem地区に建つ黒人コミュニティの中心地。

映画では美術展の企画が映し出されて、またしても自分は混乱した。「え?ここ、図書館じゃなかったけ?」ってなった。壁には黒人に焦点を当てた作品が並ぶ。

 

これがアメリカに、ニューヨークにある意味を考えてみる。

黒人人口がアメリカに多いのは、奴隷貿易の「商品」としてアフリカから「売られて」きたから。要するに人身売買だ。その由来も悲惨ならアメリカのコミュニティで奴隷として扱われてきた歴史も悲惨。特に南部では大農場の労働者として働かされる(この辺の描写は南北戦争時代の「風と共に去りぬ」にくわしい)。

つまり南部では奴隷制度は根強く意識として残っていて、リベラルな北部にこういった黒人の人権について考える施設ができた、ということか。

ちなみにアフリカにはこういう施設は無いのか?ないかも。特に奴隷貿易の舞台となったギニア湾沿岸諸国は歴史、文化、経済すべてが破壊されて、こういう歴史を振り返り人権について考えるという施設なんかないはず・・・(調査不足)。

 

とにかく黒人文化、BLAK Cultureはアメリカ社会に根差して発展していった。その例としてJAZZがある。この研究図書館以外にも、国立JAZZ博物館とか、あとJAZZクラブも彼らのBLAKC lutureの殿堂として親しまれているようだ。

 

黒人コミュニティを取り巻く現実は厳しいわけですけど。この何百年にもわたって世代を超えて根付いている人種差別の意識は一朝一夕に解決できる問題ではない。

 

ここで五嶋みどりがNYでやってた慈善訪問と演奏会を思い出す。

「五嶋みどりの世界」 (アバド・BPOとのリハーサルを含む。) - YouTube

ドキュメンタリーの途中に、Harlem地区の小学校に演奏に来た時の様子が入ってる。

音楽の授業も予算不足でやってないらしい小学校にやってきて、元気よく子供たちに話しかけるようす。この動画が1995年当時らしいので、現在はこのHarlem地区には植樹も進んで環境は改善されてるようだが。(そしてこの環境改善と植樹にも図書館は提言か要望か、何らかの形で関わっているらしい。ほんと守備範囲半端なさすぎる)

 

創設が1905年、現存する建物も1973年築と老朽化が進んでいたところを最近リニューアル・増改築したらしい。

ニューヨーク公共図書館(NYPL)が、ションバーグ黒人文化研究センターを改修 | カレントアウェアネス・ポータル

総費用は2200万ドル、つまり110円/$としても約24億円。

図書館全体の年間総予算が約340億円。

何にしても桁が違う。日本人の感覚では想像もつかない。

 

 

図書館の各サービスという意味でも色々な場面でドキュメンタリーに黒人コミュニティの地域が登場する。

・いわく、日本で言う放課後児童クラブ的な集まり。職員たちが子供たちを前に、マンツーマンで勉強を教える……というより、一緒に話を聞いて考えている。というか考えさせている。またパソコンの教育向けソフトも活用されているようだ。ここでもデジタル技術が大活躍。

 

・子供というより中高生向け?の教室も写されていた。いわゆるティーン向け?ロボット模型と独自のプログラムを使ってみよう的な教室。(その前のミーティングで10代の子は図書館に来てくれないという会話の続きだと思う。)

しかし、やってることが高専の体験入学そのまんまなんだよね・・・?

ほんと現場では誰が指導してるんでしょうね・・・

 

 

演奏会 これはブロンクス区分館のようです。

ダブルリード楽器4重奏によるルーマニア民俗舞曲が上演されていた。

※参考動画(頭出し済み):Muzsikás: Bartók: Romanian Folk Dances / with Danubia Orchestra - YouTube

日本人にはこの曲、TV番組の引っ越しの場面でおなじみだけどそんな番組は米国にはない。はずだ。観客席には黒人が多い。空席が目立ち、たまに寝てる人がいる。

コンサートとして上演を斡旋し無料で観客に公開(上記のリンカーンセンターで)するだけではなく、利用者のコミュニティまで出て行って演奏会を開いてるってことだ。

 

図書館の仕事は知る機会を平等に利用者に提供すること。

そう講演で語っていた館長さんの言葉を思い出した。

 

 

 

図書館サービスとは何なのか、どうあるべきか

以下、これらの施設と資料を生かして図書館が展開するサービスがまた圧巻。

モットーはあくまで市民のニーズに根差したものという意味で究極に敷居が低い。

どういう需要があるのか、潜在的なところまで調査し、近づいて行って提案する徹底ぶり。

すごい。

 

専門性を高めたところで利用されなくては図書館資料の意味がないからだ。

来てくれるのを待ってても意味がない。

じゃあどうやったら使ってくれるのか、こっちで考えよう。

そういう意識で思う存分資料たちは活用され尽くしてる感があって、見てて妙に満足感まで覚える。

レファレンス

圧巻の資料を誇るニューヨーク公共図書館。

しかし真のメインコーナーは冒頭の何気ない電話のシーンであった。

オペレーターらしき人が利用者に事務的なことを応えている。

いわく今の貸し出し冊数(50冊までOKだそうで、期間が気になる)、いわく何を借りたか、……そんな誰もが思い浮かべる図書館司書のイメージそのままの会話。

それと交互に差し込まれてるもう一つの電話の会話がさりげなさ過ぎて、自分はえーと5回くらい見直した。

あれ?……と思って。

インカムマイクつけてる人は3人登場する。

そのうちの1人が、……あれ会話内容が違うぞ?ん???

ていうまるでサブリミナルみたいなさりげなさ過ぎてわかりにくい演出が実はレファレンスの問い合わせ電話だった(と思う)。

 

レファレンスとは?

この記事の冒頭に貼った事務員Gさんのツイートにあるように、図書館の各専門分野の司書さんが何日もかけてあらゆる資料、他館、他機関も併せて調査研究して結果を報告書にしてくれるものなんですけどね。

なんかこの冒頭のインカムマイクつけてる人、電話でそのまま問い合わせに答えてるんですよね。あんまりナチュラルすぎて見落としていた。

これがいわゆる人力Googleと揶揄される、電話によるレファレンスサービス、らしい。

調べると言えばgoogle、略してググると言われるくらい親しまれ信頼されているgoogle検索エンジン。その正確さ、情報量、またマルチメディアで検索できるなどの使い勝手の良さ……

ここの電話でのレファレンスはそのネット検索エンジンに比肩しても人気があるようで問い合わせは絶えないらしいってことだ。そりゃそうだろうなあ、レファレンスの最初の問い合わせの聞き取りから結果まで電話で済むなんて便利すぎて夢みたいですよ。

何度も言いますがね、このサービス無料なんですよね。

え?google先生も無料で使える?

いや、調査結果、つまり内容の充実ぶりを比べてみてください………google先生で事足りれば図書館はなくなってるはずですよね)

 

 

イベントホールとしての役割

上記でコンサート会場の役割も担ってると書いたが、図書館が企画提案するイベントはそれにはとどまらない。

 

講演会、対談、トークショー……これらは音楽とは違う形で芸術・思想を伝えている。

 

登場する有名人らしき人が自分には知識なくてあんまりわかってませんけど。

分かる分だけでも拾ってみた。

ホールみたいなところでやってるのもあったが。

図書館の玄関入ったところでやってる対談は、何気なく通りすがりにでも話を聞いてもらえて、より「偶然の文化との出会い」みたいなNYを象徴する空間になってるなあと思って興味深い。

講演の内容も多種多様にわたっていて、図書館が企画するというよりTV番組くらい内容がそれぞれ濃い。

ほんとに全部無料なんだよね(しつこいな)

 

・講演ー-本館ロビー 自然科学者 リチャード・ドーキンス

 

・講演 作家  歴史ノンフィクション?  
 国家建国黎明期の奴隷制度の歴史  アフリカ現地からの奴隷貿易の歴史  

 

・講演 移民2世?による19世紀の様子 ユダヤ人の迫害の歴史

 

・講演 エルビス・コステロ(1950年代生まれのロックミュージシャン)が民主主義を語る

 

・講演:詩人 コマンヤーカ アフリカ系の黒人
ブルースが作品の本質だという。人種差別からくる哀しみを表現してるって事だろうか 

 

 

市民の社会的インフラ、セーフティネット、最後の砦

 

役割がサービスを市民に平等に届けることなので社会的弱者、情報弱者といわれる人たちへのサービスは蟻も通さないようなきめ細かなサービス網が貼られている。

とりこぼしは許されない、という自負が合間のミーティングでも語られていた。

ここまでくるとますます図書館とは思えない!?

 

・就職フェア ブロンクス区分館にて。実際の各職種の人の体験談と、ロビーでの資料配布 面接の指導から履歴書の書き方まで。

まんまハローワークですね。

でもここまで住民に密着したネットワークを駆使して身近な所で就職フェアとか、ハローワークはやらないですよね。日本では。自分の施設にこもって、訪れた人にサービスを提供してる感じ。次の障害者向けもそうだけど、尋ねられないと答えない。就職に、その他いろいろな暮らしに、どういった公的サービスがあるのか聞かれるまで黙ってる。

何度も言いますけどこっちは図書館です。比べる機関からして違うのにこの充実度。

 

・子供とお母さんたちの集まりの中で、絵本の読み聞かせ(これは日本でもよく見る)

 

視覚障害者を対象に、住宅関係の公的補助制度の紹介

 

・チャイナタウンでの中国系市民向けにマンツーマンのパソコン講座

 

舞台芸術図書館にて

美術館や劇場を訪れる視覚障碍者のために、手話通訳者の養成講座

 

この辺がいわゆる社会的弱者の立場といわれる人たちに対するサービス。

ほかにも担当する専門公的機関あるだろとも思う。

でもこれらの利用者たちは、利用窓口が図書館に一本化されていれば使いやすいというか、図書館に行けばどういうサービスがあるか教えてくれるというシステムはまさにセーフティネットだ。

この利用率の高さを見る限り、そういった情報を必要とする人たちからも頼りにされてるなあと思う。

サラッと書いたけど、とりあえず図書館に行けば何でも教えてくれるって懐広いなあ…

 

 

《課題》

・ホームレスに対してどこまでサービスを提供すべきか

しかし前向きなことだけではない。議論して結論の出ないテーマも登場する。社会的弱者の最たるものであるホームレス、日本にはそういう人たちのための生活保護っていうシステムがあるがアメリカにはそんなのはない。こればっかりは図書館ではカバーしきれないし、制度が無いにしても、最低限は公的機関つまり市が税金を使う場面かもしれない。

でも図書館もできる限りはこの層に協力したいっていう姿勢が感じられてちょっと安心する。(確かに本来の利用者層がはじき出されては元も子もないが)

 

 

 

所々に顔を出す、図書館の普段の風景。

利用する人々の何気ない表情。

みんな自由に正面階段に座り、各々の閲覧室で真剣に調べものをし、玄関ホールでポーズをとって記念撮影。

隣接するカフェで思い思いにくつろぎ、思索する人々。

噴水のある公園の芝生で本を読み、パートナーとゆったり時間を過ごす。

 

BGMに流れるのはエンターテイナー。このちょっと古風な録音のピアノで演奏されているラグタイムが、図書館が創設された19世紀末を彷彿とさせる。

 

 

 

 

さらに課題:資料は紙を取るかデジタルか

これはすでに電子図書が出てきた時から言われ続けている。

 

紙媒体の長所:

・長編も読みやすい 

・図書館の資料に加えればずっと残る

短所:

・重い、保管場所の問題。貸し借りに図書館まで行く必要がある。

・また古くなると紙が劣化する。

・ベストセラーの場合大量に購入するとその後需要がなくなる問題

 

デジタル本の長所:

・手軽に扱える、子供にも簡単、ものを持ち運ばなくてい

短所:

・デジタルデータが消されると資料として図書館に残らない

・ベストセラーで大量購入後の問題はデジタルも一緒

 

この辺は永遠の課題であり、議論の結論は簡単には出ないはずだ。

しかし上記の理由から、全資料がデジタル化することはありえないといえる。

辞典類の検索目的の書籍は電子化にも利点があり、最新版が随時配布されるけど、一般の書籍はそうではないからだ。

 

 

音楽の世界ではサブスクが全盛期だ。

 

でも図書館資料としてはアナログ媒体ならではの存在意義があり、それが図書館へ足を運ぶ理由になっている。

 

ここではニューヨーク公共図書館の映画から感想を書いたけど、実際の身近な図書館においても問題の本質は変わらなかったりする。

 

これ書いてる自分は日本人なわけですが。

 

とりあえず足が遠のいている人も、行ってみよう身近な図書館。

意外になにかいい事があるかもしれない。